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仙台高等裁判所 昭和41年(う)117号 判決

被告人 斉藤健児 外四名

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、福島地方検察庁郡山支部検察官検事外山林一名義の控訴趣意書、被告人斎藤健児および同加藤彦三の弁護人田島勇名義ならびに被告人相良修二の弁護人小泉栄之助名義の各控訴趣意書に記載されたとおりであるから引用する。

一、弁護人田島勇および同小泉栄之助の控訴趣意中事実誤認の主張について

原判決挙示の関係各証拠を総合すると、被告人斎藤健児に関する原判示第五、(一)の殺人未遂の事実、被告人相良修二に関する原判示第四の脅迫幇助および猟銃不法所持幇助の事実ならびに同被告人に関する原判示第六の猟銃携帯所持の事実は、すべて十分にこれを認めることができる。

まず、右関係各証拠によれば、被告人斎藤健児の原判示第五、(一)の犯行の経緯、経過、手段および態様に徴し、ことに、被告人斎藤健児が発射した約八発の拳銃弾は、いずれも斎藤隆雄、花田勝良および佐藤武に命中してはいないものの、その多くは、同人らを目がけて、二〇メートル前後の近距離よりそれぞれ発射され、同人らの身辺をかすめ飛んでいることからいつて、同被告人に同人らに対する殺意があつたことはこれをゆうに推認することができる。

また、前記関係各証拠によれば、被告人相良修二は、被告人斎藤健児より原判示猟銃の貸与方を求められ、一旦はこれを断つたものの、同被告人より「これから喧嘩をするというのに貸せないのか」と嫌味を言われたため、同被告人に対するやくざ稼業上の義理合いから、同被告人に右猟銃を貸与する気持になり、これを携帯して同被告人により斎藤隆雄らに対する暴行傷害の行なわれている現場である原判示高瀬睦会事務所前路上まで赴いた際、肩にしていた右猟銃を同被告人に取られてしまつたことおよび同被告人が直ちに右猟銃を用いて斎藤隆雄を脅迫したことが明らかであり、これらの事実関係に徴すると、被告人相良修二は、同斎藤健児に右猟銃を積極的に手渡したものとはいえないにしても、同被告人に貸与するつもりで前記場所まで持参していた右猟銃を、同被告人が被告人相良修二より手渡されるのを待ち兼ねてその手に取るに至つたものであつて、同被告人の右猟銃所持は被告人相良修二の意に反するものではないことが明らかであり、右両被告人間の該猟銃所持の移転は、その任意の所持の移転と評価されてしかるべきものと認められる。原判決が、右事実関係をもととして、被告人相良修二より同斎藤健児に対し右猟銃を手交したものと認定したことは、その措辞が簡略に過ぎる嫌いはあるが、あながち不当とするまでもないところである。

さらに、前記関係各証拠によれば、被告人相良修二が被告人斎藤健児、同西村俊雄および同鈴木孝一と共謀して、斎藤隆雄らから再び襲撃される場合に備え、護身用に供する目的で、原判示第六の猟銃を携帯所持したことが明らかであり、右猟銃が原判示タクシーに積み込まれるまでの経緯、とくに直前に実包が右猟銃に装填されていること、同被告人らは取りあえず被告人斎藤健児が負うた傷口の手当を受けるため右タクシーに同乗したものであるが、警察官による非常警戒に伴う職務質問をさけるため、わざと郡山市内に居住する医師による診察を求めなかつたこと等の右証拠上明らかな情況的事実に徴すると、同被告人らが右猟銃を右タクシーの後部トランクに積み込んだということだけから、直ちに所論のように、前記のような猟銃携帯所持の目的があつたことを否定することはできない。

その他、記録および証拠物を精査し、当審における事実取調の結果を検討しても、原判決に所論のような判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認の疑いは存しない。論旨はいずれも理由がない。

二、検察官の控訴趣意第一(法令適用の誤りの主張)について

原判決が、原判示第六の被告人相良修二、同斎藤健児、同西村俊雄および同鈴木孝一にかかる共謀による猟銃の携帯所持の事実につき、被告人相良修二が福島県公安委員会による狩猟およびクレー射撃の用途に供するための猟銃所持の許可を有することを認定したうえ、被告人相良修二について刑法第六〇条、昭和四〇年法律第四七号附則第五項、同法による改正前の銃砲刀剣類等所持取締法(以不単に「旧法」という。)第三二条第一号、第一〇条第一項を、被告人斎藤健児、同西村俊雄および同鈴木孝一について刑法第六五条第一項、第六〇条、昭和四〇年法律第四七号附則第五項、旧法第三二条第一号、第一〇条第一項をそれぞれ適用していることは所論のとおりである。ところで、旧法第三条第一項各号に規定する事由は、いずれも同法第三一条第一号の罪の違法性阻却事由であつて(最高裁昭和二四年三月一〇日判決、刑集三巻三号二八一頁以下、同昭和三一年一二月二五日決定、刑集一〇巻一二号一七〇一頁以下参照)同法第二条所定の銃砲または刀剣類を所持する者については、何人であつても、直ちに同法第三一条第一号の罪が成立し、ただ、その者に同法第三条第一項各号に該当する事由があるときは、その違法性が阻却されるというに過ぎず、同法第三一条第一号の罪が刑法第六五条第一項にいわゆる身分により構成される犯罪であるとは到底解することができない。また、旧法第三条第一項第三号によれば、同法第四条の規定による所持の許可を受けた銃砲または刀剣類を当該許可を受けた者が所持する場合をもつて違法性阻却事由としていることは明らかであるが、右事由が当該許可を受けた者の一身的な事情による違法性阻却事由であることは、同法第三条第一項第三号の文言自体に徴し、また、同法第五条によれば、同法第四条による所持の許可をするについては、同条による許可を受けようとする者に関する年令、心神状態、住居の安定性、前科の有無および内容等の個人的、主観的要素をも考慮すべきものとされていることからみて、いうまでもないところである。してみると、被告人相良修二が福島県公安委員会より原判示猟銃所持の許可を受けているからといつて、同被告人と被告人斎藤健児、同西村俊雄および同鈴木孝一との共謀にかかる右猟銃の携帯所持について、被告人相良修二が所持の許可を受けているという一身的事情による違法性阻却事由が被告人斎藤健児、同西村俊雄および同鈴木孝一に対してまでその作用を及ぼすものとは到底解することができない。

さらに、被告人相良修二は、前記のように、右猟銃の所持について、福島県公安委員会より許可を受けているものであるが(押収してある「銃砲所持許可証」〔昭和四一年押第四九号の六〕によれば右猟銃の旧法第四条第一項に規定する用途は狩猟だけであることが明らかである。)、同被告人が右許可にかかる用途に供する場合でなく、その他正当な理由がないのに、被告人斎藤健児、同西村俊雄および同鈴木孝一と共謀して、原判示のような目的のもとに、右猟銃を携帯所持することは、刑法第六五条第一項の精神にかんがみ、同法第一〇条第一項違反にとどまらず、同法第三一条第一号の罪の共謀共同正犯が成立すると解するのが相当である(大審院昭和一二年二月一七日判決、刑集一六巻九二頁、同昭和一二年一〇月二九日判決、刑集一六巻一四一七頁参照)。つまり、旧法第一〇条第一項は、同法第四条についていえば、同法第四条の規定による所持の許可を受けた者についても、その所持の態様について制限を設け、同法第四条にかかげる用途に供するかその他正当な理由がある場合でなければ、当該許可を受けた銃砲又は刀剣類を携帯しまたは運搬してはならないと規定しているだけであつて、同法第三一条第一号の罪に対して犯人の身分により刑の軽重がある犯罪類型を定めたものではないし、また、被告人相良修二が所持の許可を受けたことによる違法性阻却事由の阻却作用は、同被告人が自ら所持する場合に限つて及ぶのであつて、所持許可を有しない他の者と共謀して右猟銃を携帯所持する場合にまで及ぶものではないと解するのが相当である。

してみると、原判決が被告人相良修二、同斎藤健児、同西村俊維および同鈴木孝一について本項冒頭掲記のような法律の適用をしたことは、所論のように法令の適用を誤つたものというほかはないけれども、原判決は、被告人斎藤健児、同西村俊雄および同鈴木孝一については、猟銃の所持許可を受けた者である身分がないとして、結局、旧法第三一条第一号、第三条第一項、罰金等臨時措置法第二条の刑を科するとしているのであり、また、被告人相良修二については、右猟銃の携帯所持のほか原判示第一、(二)の拳銃所持罪および拳銃用実包所持罪ならびに原判示第四の脅迫幇助罪および猟銃所持幇助罪について刑法第四五条前段の併合罪であるとしたうえ、同法第四七条本文第一〇条により原判示第一、(二)の罪の刑に法定の加重をしその刑期範囲内で同被告人を処断すべきものとしているのであるから、前記のような法令適用の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいい難い。論旨は結局理由がない。

三、検察官の控訴趣意第二(量刑不当の主張)ならびに弁護人田島勇および同小泉栄之助の控訴趣意中量刑不当の主張について

所論にかんがみ、記録および証拠物を調査し、当審における事実取調の結果をも参酌して、原判決の被告人ら五名に対する量刑の当否を検討すると、

(一)  まず、被告人斎藤健児の本件各犯行の動機、経緯および態様、被告人の原判示高瀬睦会における地位および本件犯行当時における生活状況、同被告人の年令、性行、経歴、同被告人に原判示累犯前科があること、原判示第五、(一)の犯行が地域社会に与えた影響等諸般の情状を考え合わせると、同被告人の刑事責任はかなり重いものというほかはなく、ことに、同被告人の原判示第五、(一)の犯行は、無謀にも繁華街を舞台として敢行されたもので地域社会に強い不安感を与えたことを否定することができないし、その犯行も、その直前に、同被告人が原判示第三、(一)および(二)のように全く無抵抗に終始する斎藤隆雄に対し殴る蹴るの暴行を加えて原判示のような傷害を与えたほか、花田勝良および二瓶安彦に原判示のような暴行を加えさらには猟銃を擬して斎藤隆雄を脅迫したため、同人らにおいて、直接にはその仕返しの目的で同被告人に対し拳銃を用いて狙撃するに至つたことに起因するものである点において犯情が極めて悪質であるというべきであるけれども、他面、同被告人の発射した拳銃弾はいずれも斎藤隆雄らに命中せず、また、幸いにも、通行人その他の一般市民に対しても傷害を与える結果を惹起していないこと、同被告人の本件各犯行が原判示高瀬睦会における佐藤英夫一派との勢力争いに伴う対抗関係を底流とするものであることを否み難いものの、右のような対立抗争を生じたについては同被告人のみならず佐藤英夫一派にもその原因を作出したとみるべき事情も窺えるのであり、また、同被告人が、検察官所論のように、原判示第三、(一)および(二)の各犯行前より斎藤隆雄らを殺傷する意図を有していたとか、同被告人の同僚である小見庄一が斎藤隆雄らの発射した拳銃弾により受傷したことについても、同被告人に責任があるとか、あるいは同被告人の負うた傷口の手当を受けるためタクシーに同乗した際にそのタクシーの後部トランクに原判示第六の猟銃を積み込んで携帯所持したことをもつて、積極的に斎藤隆雄らに対する攻撃を加える意図をもつていたものとすることは、関係各証拠に照らしいずれも当を得ないところである。以上のような諸般の情状をかれこれ考え合わせると、原判決が被告人斎藤健児を懲役五年に処したことをもつて、検察官所論のように不当に軽い量刑であるとはいい難いし、また、弁護人の所論のように不当に重い量刑であるともいい難い。

(二)  また、被告人相良修二の本件各犯行の動機、経緯および態様、同被告人の年令、経歴、原判示高瀬睦会との関係、同被告人に原判示(一)および(二)のような罰金刑の前科歴があること等諸般の情状を考え合わせると、同被告人の刑事責任は必ずしも軽視することができないのであり、ことに、原判示第一、(一)の拳銃は前記斎藤隆雄が被告人斎藤健児を殺害する意図のもとに使用するところとなつたことおよび原示第一、(一)および(二)の各拳銃および拳銃用実包を購入するにあたつて被告人相良修二が果した積極的役割からみれば、その犯情は悪質といわなければならないけれども、他面、原判示第四の脅迫幇助および猟銃不法所持幇助の各犯行はさほど同被告人の積極的な意図にもとずくものとはいえないのであり、また、原判示第六の猟銃所持も、被告人斎藤健児の負うた傷口の手当を受けるために赴く際に、同被告人の強い求めにより携帯所持するに至つたもので右猟銃に実包を装填したのは被告人相良修二ではないことも明らかであり、その他、同被告人の家庭の状況等諸般の情状をかれこれ考え合わせると、原判決が同被告人を原判示第一、(一)の罪について懲役四月に、原判示第一、(二)、第四および第六の各罪について懲役一〇月に処したことをもつて、検察官所論のように不当に軽い量刑であるとはいい難く、また、弁護人所論のように不当に重い量刑であるともいい難い。

(三)  つぎに、被告人加藤彦三の本件犯行の動機、経緯および態様、被告人の原判示高瀬睦会における地位および本件犯行当時における生活状況、同被告人の年令および経歴、同被告人は昭和三六年七月一四日水戸地方裁判所で暴力行為等処罰に関する法律違反、傷害罪により懲役一〇月(五年間執行猶予)に処せられ、本件犯行当時その執行猶予期間中であつたこと等の情状にかんがみ、ことに、原判示第二、(一)の拳銃は被告人斎藤健児の求めにより同被告人に手交し同被告人によつて原判示第五、(一)の殺人未遂の犯行に使用されるに至つたことを考え合わせると、被告人加藤彦三の刑事責任も決して軽微なものということはできないのであつて、所論のような同被告人の家庭の状況等同被告人のため有利に斟酌すべき事情を考慮しても、原判決が同被告人を懲役一年に処したことをもつて、不当に重い量刑であるということはできない。

(四)  さらに、被告人西村俊雄および同鈴木孝一の本件犯行の経緯および態様からいえば、同被告人らは被告人斎藤健児および同相良修二の原判示第六の犯行にいわば巻添えをくつたとも評することができるのであつて、被告人西村俊雄は、同被告人方で、被告人相良修二が持参した原判示猟銃を預つたのち、被告人鈴木孝一もともに、被告人斎藤健児の原判示第五、(一)の犯行に伴う銃声を聞いたが、病臥中であつたこともあつて、そのまま屋内に留まつていたところ、被告人相良修二が負傷した被告人斎藤健児を被告人西村俊雄方に同行し、その挙句、被告人斎藤健児の負うた傷口の手当を受けるため同被告人とその後の行動をともにしたものであつて、その際、同被告人の強い求めにより、右猟銃を携帯所持するに至つたことが明らかであり、被告人西村俊雄および同鈴木孝一の原判示高瀬睦会との関係、同被告人らに所論のような前科歴があること等同被告人らに対し不利益に斟酌すべき事情を考慮しても、原判決が同被告人らをそれぞれ罰金五万円に処したことをもつて不当に軽い量刑であるということはできない。

これを要するに、原判決の量刑不当を主張する検察官および各弁護人の論旨はいずれも理由がない。

そこで、本件各控訴はいずれも理由がないから、刑事訴訟法第三九六条により、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 有路不二男 松本晃平 西村法)

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